東松島市は宮城県の沿岸にある。仙台からは車でも電車でもだいたい一時間。石巻市の隣にあたる。

秋に有楽町の全国移住フェア1で、宮城県の沿岸の自治体のブースをまわって、移住の話をきいた。女川町、石巻市、気仙沼市、それから東松島市。どの街も体験移住プログラムに取り組んでいるのは同じだったし、おもしろい話を聞かせてくれたおもしろいひとはほかにもいたけれど、腰が重くなる前にいちばん熱心に招いてくれたのが東松島の方々だった。二ヶ月前くらいから打ち合わせをして、この年末に一週間の体験移住をさせてもらった。

すばらしい環境だったとおもう。まず与えてもらった住居がすばらしかった。じゅうぶんな広さ、静かさ、寒さへの抵抗力の高さ。駅の目の前、線路の間近にあっても、電車の本数は多すぎなく終電も遅すぎないから苦しめられなかった。

生活物資を手に入れるためのアクセスもよかった。国道沿いに複数のスーパーマーケットがあってほどよく使い分けることができる。薬局と衣料品店も足りて、すこしいけばショッピングモールもある。コンビニはすこし余るくらいあるいっぽうで、外食チェーンはそれほどはいりこんでいないから、没個性な景色とまではみえない。

車をつかった生活は、苦になるどころか快にほかならなかった。国道に混む時間はあっても渋滞はしないから、すこし距離が離れてもわりあいすぐに移動できる。国道をはなれると信号はいっそう減って、しかも道路はよく整備されていて走りやすい。街灯のない道路は、誰もいない夜に暗闇のなかをゆっくり走ることにこそ走りがいがあって、いつも心を静かにさせた。

週初めに寒波があって、厳しい北風が強く吹いた。軽自動車が揺れる風だった。雪もちらついた。しかし道をわずかに凍らせるだけで、積雪はなかった。実際、雪が積もることは年に数えるくらいしかなくて、ちょうど東京に積もる雪のような頻度でしかあらわれないようだ。首都よりもふるさとに近い風土を好ましくおもいながら、ドカ雪にはおののかずにはいられない気分にとって、すばらしい風土とみえる。

自衛隊基地がある。市内を車で走ると、カーナビに黒く塗られた領分があらわれて、それはみな基地の敷地のようだ。航空自衛隊の基地で、市内の空で飛行訓練をするらしい。訪問前はきっとこれは騒音の源で消極的な要素なんだろうなとイメージしていた。滞在中は、年末のスケジュールのため訓練はおこなわれなくて、どれくらいの頻度でどれくらいのノイズがあるのかはわからなかった。いっぽうで、町内にあって自衛隊の存在は、アクロバット飛行する「ブルーインパルス2」を筆頭にして、積極的に受け入れられているようにみえた。

パイロットと整備士のみなさんの肖像、所属や出身高校などのプロフィールがまるでプロ野球の選手名鑑みたいに整理されたパンフレットをみた。好みにかかわらず自衛隊が生活に隣接しているときに、自衛隊についてなんらかの方法で積極的なスタンスをもとうとすること。それは訪問前のぼくが自衛隊ときいて「なんとなく遠くにあるもの」と想像していたのとは異なる質を持っていると感じた。そのことは、この街の気質を形なく特徴づけている要素のひとつだとおもう。いちどみてみないことにはなにもわからないから、まずいちどはみてみたいものと、関心を誘われはじめてはいる。

移住。いいのではないかとおもう。おもしろそうだとおもっている。不安なこと、近所づきあいとか地域活動。進んでやってみたいとおもうけれど、相手があってのことでもあるから、うまくいくかしら、と心配におもいもする。とはいえ、不安をさがして消極的に現状維持するというよりは、美点をさがして積極的に跳んでみるのは悪くない。そうありたいとおもう。たのしくおもう範囲でだけ動いてみて、それが動くのであれば動くにまかせてみる。それでどうだろう?