晴れた日曜日の午後に渋谷でN響のコンサートをきいた。
指揮のペトル・ポペルカさんはチェコのかたで、こんなプロフィールをもっておられる。ドレスデン国立歌劇場でコントラバスの副主席奏者を約十年務めた。それが最初の仕事。それから指揮者のキャリアにポンと飛び出して、ただちに国際的な名声を獲得した。指揮者のキャリアは五年になるという。
知的で教育的なプログラムを組んだ。ツェムリンスキーは第一次大戦から戦間期にかけてプラハの劇場に勤めた。オーストリア・ハンガリー帝国が崩壊してチェコスロバキア共和国が建国された。ヤナーチェクはブルノにあって民主主義と民族自決を称賛した。同じ時代にボヘミアとモラヴィアにいたふたりの作曲家がそれぞれシンフォニエッタを書いた。その二作品でプログラムをサンドイッチしている。
リヒャルト・シュトラウスのホルン協奏曲は、チェコ生まれのラデク・バボラークさんをソリストに招いている。ホルンの巨匠ということらしい。ミュンヘン・フィルとベルリン・フィルのソリストを歴任した。この並びにドヴォルザークの作品を加えてチェコにゆかりのプログラムに仕立てようというときに、伝統志向の交響曲を選ぶ代わりに、当時の前衛だった交響詩「のばと」をもってきている。
ポペルカさんは堂々たる体格に立派なあごひげをたくわえておられて、将軍というようなたたずまいだ。しかしタクトは気品にあふれて優雅だ。なにがそうさせているのかを言い当てることができないけれど、ひとつひとつの動きが確信に支えられているようにみえて、圧倒的なプレゼンスがあった。華のある指揮でいて、過剰に演劇的でないところもいい。コンバスの出身ということもキャラクターに影響をあたえているに違いない。
派手でいかにもわかりやすいプログラムでなかったけれど、まるで名曲コンサートのようにどっかり地に足のついた演奏だったとおもう。必ずしもポピュラーなものばかりでないものを選んで、この作品はこのようなものです、とオーソドックスにみせるやりかたは教育的だった。知らないことばかりと謙虚にさせられて、もっとこのひとのもとで教わりたいと感じせしめた。
この日はこのあとのパーティのためにいつもよりきちんとした身なりでいた。電車で渋谷まで出た。ロフトで文房具をいくつかみた。コンサートのあとは名曲喫茶で、あたらしいノートとペンの試し書きをした。すばらしい時間のつぶしかたができたとおもったものだった。