日曜日と建国記念の日にはさまれた月曜日をおやすみにして出かけた。すばらしい晴れのブルーの空だった。
川村美術館が3月に休館する前の最後の展覧会にいくつもりでいた。天気は完璧で、千葉は冬でもバイクに乗れるというのを調べて、めちゃくちゃ寒いけどきっと乗ったら気持ちいいからと気合をいれていた。それでナビをいれようとしたときに、月曜日は休館日ということを知る。到着してから知ることにならなずに済んだのがラッキーということ。
もう心は出かける気分でいたわけで、葛西臨海公園にいくことにした。そのあと東京ゲートブリッジを通って、もしかしたら羽田空港でちょっと飛行機でも見物して帰ってこようと。
平日の午前中をバイクのうえで過ごすのははじめてだった。とりわけ、都内を走ったという記録はゼロだ。遠出するときはきまって週末の未明、渋滞がうまれる前に都内を脱出するように計画するようにしていたから。未明が氷点下ではさすがに心もとないので、日がのぼるのをゆっくり待ってから出かけた。
首都高に乗って、環状線はひどい渋滞だった。こんなに進まないんだなと感心した。別に急いでいないからのんきにしていられるわけで、トラックとかタクシーは気が立っていそうだった。しかし混雑を無理に出し抜こうとして、失敗して無理筋の動きを繰り出しては状況をわるくしているのも、これらプロのドライバーたちだった。平日の東京のせかせかした感じ。気の毒ではあった。同じ穴のムジナでありたくはないなとも。湾岸線は大型車が多くても軽快だった。
葛西臨海公園へは、JRの駅へとはいっていく入口のところにバイク駐輪場がある。前にここまで環七をぐるりとまわって走ってきたとき1は、駐輪場を過ぎてから看板を横目にみて、ああはいりそこねた! と悔しがった。そこにはいって停める。
無料で停め放題なのだけれど、近隣区のスクーターがずらりとならんでいて、あんまりピカピカというのでもない。大型バイクが無惨にひとつなぎ倒されている。ナンバープレートがはずされているから不法投棄のようにもみえる。ずっと野ざらしにされているようにもみえる。だれも管理していないのかしらといかがわしくもみえて、おそるおそる停めて、帰るまでになにも悪いことが起こりませんようにと願う気持ちがあった。再開発して高級化する街のことは不本意とみなすくせに、こう自由度の高いロケーションにおどろいたり心細くなったりする。頭で考えればふさわしくないことともみえるが、心の動きはありのままだった。
水族館にはいかなかった。それよりいいものを見つけたから。それは鳥類園というもの。ふたつの池が森のなかにある。ひとつは淡水で、もうひとつは汽水。野鳥のためのサンクチュアリと呼ばれていて、ひとと自然の素朴なつながりが水辺の景色として表現されている。適当にひとが草を刈って片付ける周期をもつなど、ただ手つかずで放置された沼というのではない。ひとがほどよく干渉して、破壊をこころざさないこと。それがかえって多様な鳥たちを呼び込むようだ。水をはさんだずっと遠くにアオサギが立って悠然と見回しているのがみえた。
ウォッチングセンターという施設があって、そこでは鳥類園の取り組みの紹介がなされてあった。この日はヒクイナの研究を報告していた。種子、昆虫はもとよりカエルも食べる。繁殖期には気が立っていて、格下の小鳥をみてさえ必死に追い払おうとする。縄張り争いの取っ組み合いをする。このようなヒクイナの生態観察を、センサー付きカメラで撮影することによって試みている。昨年、公園の利用者にひろくヒクイナのあらゆる写真を募集した。集まった千枚超の画像を使って、センサーが自動撮影した画像にヒクイナが映っているかどうかの単調な仕分けを自動化する仕組みをつくった。子どもたちにアノテーションを楽しく手伝ってもらいつつ、東京都市大の学生が動作するプログラムを提供したとか。背伸びした新発見を狙いにいくのでなくて、いまある凡庸な仕事を削るためにテクノロジーを使う。それは実用的なやりかただけど、達成しようとしてなかなか簡単なことではなさそうにみえた。すてきなこととみえた。
しばらく公園を散歩。カフェでホットコーヒーと「エビとアボカドのサンドイッチ」をテイクアウトして、しずかなベンチをえらぶ。まぶしい東京湾をながめる。上着を脱いでも平気なのは日差しがさんさんとあるからのようだ。サンドイッチはそんなにおおきいものでもないのに、しみじみと食べて満腹の気分となる。
バイクにもどって再出発する。お日さまは真上にきている。装備をしっかり固めていたら、真正面から風をあびても凍えることもなく走れる。いい日和です。葛西を出て、新木場から臨海道路にはいっていく。真昼にくるとコンテナを積んだトレーラーがたくさんだ。それは大井ふ頭のほうまでいっても同じこと。東京ゲートブリッジに向かってまっすぐ向かっていって、おもわず右車線にはいったら、左にはずらりとトレーラーが並んで、後ろからも車がきているからスピードを出さないわけにはいかなく、景色をみる余裕もなく駆け上って駆け下りてしまった。よってもう一往復することにして、Uターンをしたらいい具合に前後には車列がなくて、のんびり海がとおざかっていくのと、見渡した水面がいたるところでつぶつぶに光っているのがみえた。ゆうゆうと歩道をあるいていくひとがいて粋にもみえた。
もう一往復しようかというところで、回り道をしながら元の道にもどるのを間違えて、もういいやとお台場へと突進した。道案内にレインボーブリッジと書いてあるのがみえて、首都高の下を通るコースを走ってみたいとうっすらおもっていたのを思い出して、進んでいった。ただ信号のない道というぐあいで、特別ということもないとおもったあとに、おおいなるループ橋があらわれて、おおきく左に曲がって下っていくのがみえた。思いがけず興奮した。なにがそんなに熱くさせたのかはわからない。円に近い構造体が巨大なスケールで存在していることが謙虚な気持ちにさせたというあたりか。
芝浦、芝公園とすすんで、東京タワーがおおきくみえた。六本木、溜池ときたら、サントリーホールに来るときに使っている駐輪場のところで、もう知っている道だ。退屈な渋滞もいつもどおり。皇居の堀に沿ってすこしまわって、麹町、四谷、新宿。そこからは家までまっすぐ。都心がいつものように鈍くてたまらないのと比べて、臨海エリアは速度にのってスイスイ走れて楽しかったなとおもいだす一日でありました。