月にいちどの通院で新宿にいった。帰るころの時間に雨が降るらしいから気をつけて、とパートナーに教えられたとき傘はもっていなかった。
クリニックはビルのなかにあって窓はないから降りはじめはわからなかった。すこし待たされて診察室にはいって先生とはなしているとき、ドッカーンと雷が近くに落ちる音がした。ふたりしてぎょっとせずにはいられない凄まじさで、これは電車が止まるかもしれないので気を付けてお帰りくださいね、と先生もおっしゃられた。
ビルの外はバケツを引っくり返した大豪雨で、傘をもっているひとさえ帰るのをいちどあきらめてロビーでスマホゲームをしていたりする。すこしの雨なら濡れてもいい、とかいう水準じゃなくて、軒下から一歩外に出たらまずずぶ濡れになる。ずぶ濡れで駅に落ち延びたところで、タオルも持っていないから冷えずに電車で帰るのは無理っぽい。傘がほしいな。
雨雲レーダーをみるとすくなくとももう一時間は降りっぱなしにみえる。いちばん近いコンビニまでは信号をひとつはさんで80メートルある。そこまでダッシュしてビニール傘をゲットして、それをさして駅まで歩くのはできそう。スニーカーはずぶ濡れになるだろうけど、頭とお腹をできるだけ冷やさないで帰るのならなんとかできるかも。
すこしでも弱まったら飛び出そうとおもって、十分ばかり待つあいだに弱まることもなかった。おもいきって信号が青になったのをみて雨のなかに飛び出して、コンビニまでダッシュした。信号のところですり抜けのビッグスクーターが停止線をはみ出してグイグイ詰めてきた。それで足を止めさせられた。勘弁してくれとおもった。
そうして身体の前半分だけを真っ青に濡らしてコンビニについた。ビニール傘を買った。さして出た。
いつもの道を帰ろうとして、新宿バッティングセンターの前をとおった。いつもなら通院のあとに一打席振ってから帰るのだけど、もうスニーカーのなかがずぶ濡れになっていてグロテスクな感触をしているからあきらめよう。そうおもって通りに差し掛かったら、バッティングセンターの通りはおそろしく水はけが悪くて冠水している。目でみえる範囲はぜんぶ水につかっていて逃げ場なし。どうせもう濡れてるんだしとおもって水たまりのなかに踏み込んで、汚い水をくるぶしまで浸して歩いた。
西武新宿線の北側のエントランスはなぜかシャッターが降りていた。もしかして本当に雷で運休になっちゃっていたらどうしよう、とおもってそわそわと南口にまわりこんだら、ちゃんと改札はあいていて通れた。すこし遅れているみたいだったけどちょうど出るところだった各駅停車に乗れた。車両の冷房が苦しかった。
最寄り駅に降りたら小降りになっていた。それか新宿だけ局地的に降っていたのかも。ずぶ濡れになったスニーカーは部屋干しして除湿機をぐるぐる回して乾かした。乾くには乾いたけど、新宿の下水混じりの水たまりに浸ってひどい悪臭が染み込んでしまってもうおしまいだ。そもそもボロ靴ではあったのを雑に履き続けていただけではあったけど、天気の気まぐれが無慈悲に引導をわたした。