バイクのジャケットはふたつ持っている。ひとつはバイクを譲ってもらった去年の一月に一緒に柏のライコランドで見繕ってもらった真冬用の防寒装備で、もうひとつはその防寒具では暑すぎるとなりはじめた去年の春に手に入れたやつ。まあ、冬に着るものと冬以外に着るものの二通りあるというわけ。
冬に着ないものは「春夏用」というカテゴリになっている。春から初夏くらいに着るのに快適という意味だとおもう。まあ猛暑でも高速道路にでも乗ってしまえば風を浴びれて気持ちいいし、そうじゃないときに暑いのはもう我慢するしかわね、とみなしていた。やせ我慢というほどの自覚もなく、あるもので済まそうとしていたわけ。そもそも去年の夏はまだ恐る恐るで、真夏はしばらくお休みして晩夏あたりからようやくあちこち足を伸ばすようになりはじめた。
その「春夏用」のジャケットを夏に着て出かけようとしたときに、あんまりにも暑くて苦しそうと言われることが重なった。はじめは隣の家のおかあさんに「暑そうですねえ、熱中症にはお気をつけて」とやんわりいわれた。続いてパートナーにもおなじように心配されて、ちゃんと風は通すようになっているんだよと教えたけど、夏に着るには見栄えが暑苦しいというのはたしかなようだとはっきり自覚した。
ヒョードーというブランドで出している “UCHIMIZU” というシリーズがいちばん涼しいらしいというのを雑誌とかインターネットでなんとなく読んでは刷り込まれて気になっていたのを、ちょっと高いけど買いに行ってみるかと出かけた。東京の店舗は杉並にあってまあまあ近所だ。バイクでも自転車でもいけるけど、試着させてもらうときに汗まみれになっては具合がわるいから、ループの三時間券を買って、電動キックボードに乗ってシャツを風で気持ちよく膨らませながら出かけた。
ジャケットは何種類もあるけど、目当てにしていた “UCHIMIZU” の、最新型のプロテクターを同梱していて軽い着心地のやつを試着した。ミディアムとラージとで揺れて、胸部プロテクターも試着させてもらって、まあミディアムでピッタリ着られるのでこれにしましょう。胸のためのプロテクターはいま持っているやつを使い回すこともできるけど、試着したときに胸のところの野暮ったさがないのが楽だったので合わせて買ってしまった。しめて五万円の買い物、かなり高いけど、この前もらった賞与にまだ手をつけていないから、と自分に弁明しながらおもいきって支払いです。背中のプロテクターを曲げずにリュックに収めることができなかったので、手提げ袋に詰めてもらってループのハンドルにぶら下げて持ち帰る。
夜になってひとっ走りいってみます。山手通りを中目黒の先まで走って、恵比寿ガーデンプレイスのところで一休み。そこで旋回して来た道を帰ります。この恵比寿と目黒のあいまの住宅街のあたりには、昔すんでいたシェアハウスがある。こんなに暗かったかしらと横目にながめながら過ぎる。
半袖のシャツを下に着て走ってみると、腕のあたりまでしっかり風を取り込んで、涼しいというより冷たいとさえ感じさせることもあった。夜のことで、摂氏27度くらいはあったとおもうが、まあまあ涼しいくらいの部類の日ではあったとおもう。
信号待ちで立ち往生すると、風がなくなって自然と暑い。薄手の長袖で立ち尽くしているのと変わらないかも。足元からはエンジンの排熱があるので、単に長袖を着ているよりももうすこし暑いかも。走行中の冷たさと信号待ちの暑苦しさで差し引きゼロという感じ。
山手通りとか環七通りを走るときの速度域は高めだから風も強く取り込んでより冷たかったというのはあるかもしれない。信号の少ない下道を平凡な速度でダラダラ走る、みたいな走り方がいちばん気持ちいいかも。夜の高速道路では、この上にもう一枚はおりたくなることもあるかも。
猛暑日の真っ昼間だったらどんな感じかはまだわからないけど、すくなくとももともとの「春夏用」ジャケットでは、それを猛暑日に着て出かけたいというモチベーションが極小だった。それに比べてこの “UCHIMIZU” なら、猛暑日でももしかして耐えられるのでは? という期待の形式でモチベーションを与えてくれていそう。やっぱり真夏には真夏の服があるというだけの当たり前のことみたいでもある。