まつもと市民芸術館で年にひとつのオペラ公演をみた。

去年の音楽祭ではオペラのチケットはすばやく売り切れてしまって、オーケストラのコンサートをみた。今年の音楽祭では、チケットが出たその日か次の日くらいに予約をとった。

公演当日になってはじめて気がついた、去年はメンデルスゾーンの「夏の夜の夢」をやって、今年はブリテンの『夏の夜の夢』をききにきた。指揮は一貫して沖澤のどかさん。

童話のようにかわいらしい劇だった。作曲家も演出家も、シェイクスピアのどたばた喜劇をすなおにまとめて、奇をてらって芝居を書き換えて逃げないで、古びることのない古典をそのまま差し出しているようにみえた。

妖精が実在する世界を映し出すのに、演出は光をもって視覚にうったえかけた。青白く細い光をあつめたちいさな妖精たちがいた。妖精の王と女王はステージの上空をふわりふわりと優雅に飛び回った。月の光の青い夜、妖精が横たわる姿を影絵のように映した。

恋する若者たちはベッドや布団を引きずりながら寝間着で駆け回った。はたらく男たちはカラフルな作業着で、自転車にも乗って走り回った。

超絶技巧の絶唱というようなものでひとりが抜きん出ることはなくて、芝居のおもしろさにたまたま歌が乗っかっているようなやりかただった。歌いながらも、身振りにわざとらしさがなく、演技のうまさをみせたともいえる。夏の音楽祭の浮足立った雰囲気にはうってつけのプログラムだった。

あずさの終電で帰ろうというときに、松本市内はすこしも降っていないのに、小淵沢あたりで豪雨のため車両点検が要るといって、先発電車が遅れていた。松本を定刻通りに出たあと、下諏訪、上諏訪、茅野と停車を繰り返して、二時間遅延での帰京になった。すっかり疲れてしまった。