市の夏まつりの翌日、航空自衛隊のおまつりに出かけた。

航空祭と呼ばれていて、自治体にとっては夏まつりとセットで一年でいちばんおおきなイベントのようだ。セットというか、市役所のひとも床屋さんもジムのトレーナーも「航空祭、航空祭」といっていて、自衛隊の航空祭のほうに市の夏まつりのほうが併呑されているくらいの勢いかもしれない。

いつも堅く守られている自衛隊基地のゲートが、この日は市民のために開かれて、航空機の展示とか、活動の紹介とかが行われる。一年前、このあたりをレンタカーで走り回っていたときに、気まぐれで曲がった角が基地のゲートへの道になっていて、ものものしいチェックポイントがみえたとたんに「すみません!」といってあやしげに旋回して帰った入口まで、こんどは家からあるいておとずれた。県道の交差点は大渋滞していて、田んぼの真ん中にあるファミリーマートの駐車場は帰省ラッシュのサービスエリアくらい混雑していた。

奥のほうにある格納庫で展示をやっているということをよくわからずに、買い忘れた飲み物をどこかで調達できないかなとうろうろした。無料の給水所があって、その脇にコメならいちどに600人ぶん、カレーならいちどに200人ぶんの炊飯と調理ができるという改造トラックが展示されているのをみた。コカコーラの自販機があって、そこでは麦茶が110円、缶コーヒーが80円で買えた。特別価格なのかしら?

おおにぎわいの物販テントのならびを通り抜けて、なおひとの波に流されながら格納庫への坂をのぼった。ひとの流れのものすごさも、よくわからないけどなんとなく流れにのって主体性なく移動するのも、夏フェスみたいな雰囲気だった。降らない程度の曇り空は、野ざらしのひらけた空間にあって、日差しがないだけでずいぶん楽とおもわせた。汗は歩けばじわりとにじむくらいにすぎなかった。

ふたつある格納庫のひとつは、外周をつかって戦闘機の展示をしていて、中心あたりは花火大会の場所取りみたいにひとがひしめいていた。もうひとつの格納庫では、遭難者救助のための専門装備をみせていた。

背中にプロペラがついていて、それを着て歩くことも、うつ伏せになったらヘリコプターみたいに空を飛ぶこともできるという、ごてごてした等身大スーツをみた。ブラックホークヘリコプターからミサイル装備をはずしているので優しいのです、みたいなパネル説明があるけど、いったいどこに軍用ヘリとの連続性があるのかまったくわからない。正規の装備というより子供向けの遊び心のようにもみえて、おかしなジョークとしてみればいいのか、ほんとうにこれで任務をするのか(できるのか?)まったく見通せなかった。隊員がそれを説明しているのをきいても、嘘みたいなコンセプトに納得することはできなくて、そうはいってもやたらに食い下がって変なひととおもわれるのも困りごとだから、消化不良のまま切り上げた。

戦闘機の訓練飛行をすこしながめて、巨大な人工物が空を横切って雷みたいな音を鳴らしていくのはハードロックとかメタル的な快楽があるのがわかった。戦闘機は空気を振動させるエネルギーを撒き散らして、こちらの足元、腹、手にもった空のペットボトルまでビリビリいわせた。かつてバイクのことはうるさいとしかおもわなかったのが、自分が乗るようになって耳を更新して、いつのまにか独特のエンジンの音をきくと浮足立つようになったみたいに、耳が飛行機のために馴致させられてきているのかも。いや、中野の空にだって飛行機が飛んで騒々しいことはあったし、もともといくらか慣れていたのかも。

三時間弱かけて、開放されている敷地をひととおりあるきまわって、お昼ごはんの時間にあわせてあるいて帰った。ひっきりなしに歩いて、余裕で一万歩をかぞえていた。