秋分の日を目の前にした週末の土曜日に、おばあちゃんのお葬式に参列するために秋田角館の実家に帰る。東松島から車で、下道だけで帰る。

母と弟が先に帰ってお墓の掃除とかをやってくれていた。かなり冷えるから服に気をつけて、とメッセージをもらった。たしかにこっちもだんだん寒くなってきたし、おなじ東北でも北にいけば寒くなってもおかしくないわ。そうおもって秋冬の服のケースからプルオーバーをいくつか取り出して、ひとつはかぶってのこりは礼服といっしょにスーツケースにいれて、東松島を経った。

まず大崎市古川をめざして走る。そこから岩出山バイパスを通って、鳴子から山登りをして、鬼首温泉を通り抜けて雄勝に出るというのが、母があるときに発見していちばん手っ取り早いことが知られるようになった経路だ。峠とはいっても、大型トラックがとおれるようにゆるやかなカーブが設計されていて、しかも信号もなく走りやすい道になっている。

岩出山の道の駅で、濃い口の醤油ラーメンを食べる。それからよくそこで買っていたニラのキムチを買う。雨が降りはじめていたけど、寒いというよりはかえって蒸して、半袖のシャツに着替えた。このまえ松本でおみやげに買った、小澤征爾の写真のプリントのシャツに着替えた。

いつものようにしてそこから鳴子に向かうところ、カーナビがはやめの右折を提案してきて、もしかしてもっとはやい道があるかとアドリブでそれに従ってみた。それは旧花山村から小安峡へ向かう道で、通り慣れた道とは別の峠道になっている。こちらの峠は大型トラックはとてもとおれないヘアピンカーブもまぎれてある。アップダウンも激しい。しかも雨は強まって雲が目の前にかかっている。しらずしらず鬼の国に招かれているような心地をしながら、雲のなかの峠をていねいに抜けていく。やがて豪雨、とはいえそのおかげで対向車も極小で、ヒヤリとする場面には出会わずに済んだようでもあった。

あるところから地面をひっかく嫌な音がしはじめる。おおかた枝を踏んだだけだろうけど、なかなか振り払えない。いちど駐めて点検したいけれども見晴らしが悪いか急坂のただなかにあるかでなかなかとまれずに、なにかが地面をひっかき続ける音に気が狂いそうになりそうな時間を過ごす。やっとあらわれた一時駐車スペースでとめてかがみこんでみると、ヘラジカのツノみたいに立派な枝を後輪が巻き込んで引き回しているのがみえた。とびだしているのを引っこ抜いたら、絡まった根っこは車両のほうに残ってしまった。泥だらけなのをみて、いまはそのままにしてたつ。

峠を抜けて快走路に出ると、雨も山に置き去りにできた様子で、窓をあけて気持ちよく風をあびることさえもできたものだった。皆瀬、稲庭、稲川、増田、醍醐。見慣れた地名は、高校の同級生たちがこのあたりから通っていたのにおそわったもの。おとずれたのははじめてのことでもあった。

横手市街の手前のローソンで休憩して、空が暗く重くなりはじめたのをみる。暗くなる前に着こうとした予定でやってきて、雨雲が日没よりもはやく光を奪っているようでもある。そこから先は、いかにもみなれた道をつかって、横手、後三年、六郷、千畑。

雨は強まって、角館についたときにピークとなった。スーツケースは車に残して、必要な荷物だけかかえて折りたたみ傘で守って家にはいった。

黒のネクタイをもっていなかった。おじいちゃんの遺したものがひとつくらいあるかなとおもって期待してきたのだったけど、それらはひととおり処分してしまったあとだった。弟もきのうそれで、法務局までわざわざ出かけたついでに買ってきた。ぼくはそれで、タカヤナギに出かけてネクタイをひとつ買う。このとき豪雨はピークで、ワイパーを最速で回しても水が叩きつけている世界は、まるでメガネをかけないで乱視の裸眼のまま車を走らせているみたいで、ふたたびおそろしいものだった。

夕飯にまいたけのお吸い物を出してもらった。すごくおいしいきのこだとはなした。