秋晴れの気持ちいい朝に洗濯をすませてすぐに自転車で市民センターに出かけていく。
引越してすぐにポストに届いているのをみつけた市報の広告欄に、月末の土曜日はフィリピン出身の ALT の先生をかこんであれこれおそわる会があるとみつけて、ぱっと申し込んでおいた。あなたはフィリピンのことをすこしでも知っていますかと目をみてきかれると「うっ」と言葉に詰まるに違いないときに、それをすこし埋めてくれるかもしれないもよおしが近所であるというのはありがたいこと。
市民センターが会議室といって貸している部屋のひとつが会場になっていて、十時からはじまるその五分前についたら、もうほとんどの椅子が埋まっていた。こどもからおじいさんおばあさんまでおどろくほどにぎわっていた。主催の方は、市報とか口コミで拡散したとはいえこんなにひとが集まるとはおもわなかったと話しておられた。参加費の五百円と交換におみやげのカラマンシージュースをひとついただいた。甘いジュースだけどかなり酸っぱくてごくごくとは飲ませないジュースの味をしていた。
イロコス地方出身だという若い男性の先生はやさしい英語にやさしい日本語を混ぜたファシリテーションをはきはきとなさった。フィリピンの食べ物の話をして、肉の煮込みを「アドボ」というのをかろうじて知っていたほかは、甘い腸詰めの「ロンガニーサ」とか野菜の煮物の「ピナクベット」それから揚げドーナツみたいな「エンパナーダ」とかをおそわった。どれもおいしそうなこと。
フィリピンには八千弱の島があります。では日本にはいくつあるでしょう? と先生がいって、まあその半分未満じゃないですかねえとあたりをつけていたら、先生はにやりと笑いながら、一万四千ですよ! と不明をただした。ただし、それだけたくさんある日本の島のうち、ひとが住んでいるのは二百程度です。フィリピンにはそんなにたくさんの無人島はないです。といって違いを際立たせるおはなしの仕方でおそわった。
フィリピンでは九月からクリスマスを祝いはじめて、年末まで四ヶ月ずっとお祝いのシーズンですといっていたのもおどろいた。おどろいたけど、いったいどう祝っていて、どうしてそう特異なことになっているのかまでは聞けなかった。
それからタガログ語のあいさつのレッスンと反復練習。おはようございます。こんにちは。こんばんは。元気ですか。元気です。ありがとう。どういたしまして。さようなら。お気をつけて。
朝のあいさつが “Magandang umaga” で、お昼は “Magandang hapon” となる。夜になれば “Magandang gabi” という。どれも最初にやってくる “magandang” というのが「すてきな」みたいな意味を担っているみたいだ。はじめは書いてあっても読めないくらいに困惑していたけど、声に出していっているうちにあたらしいリズムがだんだん身体にインストールされている感覚が心地よかった。声に出して舌におぼえさせるほかに、朝のあいさつ “Magandang umaga” は上と下から “maga” でサンドイッチされているのに気づいて目におぼえさせた。
レッスンが済んだらこんどは早口言葉大会で、先生が「ナマムギナマゴメナマタマゴ」をおもしろそうに反復したあと、ぼくたちがタガログ語のおまじないみたいな早口言葉にチャレンジした。たとえば「七匹の白いサメ」とか「レロイの時計はロレックス」とか「モニコが人形の機械を直した」とかをタガログ語でいうと言葉あそびの響きになるのをたのしんだ。
余興のゲームは、お題がみえないように目隠しされたひとりが質問をするのに、残りのみなは「イエス」「ノー」とだけ答えて、お題にたどりついたりたどりつかなかったりする過程をたのしむ遊びをした。タガログ語で “Oo, Hindi, Pwede” といっていた。順番に「そう、そうじゃない、まあまあ」ということ。
あるおじいさんがはじめそれにチャレンジして「たまご」というのを当てようとして「食べもの…みんな食べる…納豆か?」とかなりいい線までいっていたあと「漬け物!」それから「味噌…発酵味噌!」と逸脱していくのがほんとうにおもしろかった。
これはたぶん「大谷翔平」をお題にするのがおいしいところだろうなあとおもってみていたら、先生は案の定そのサービス問題をお持ちになっていた。あるはたらきざかりの男性がおろおろとチャレンジしているとき、オーディエンス側のおばちゃんたちはみんなすぐに当ててほしいのになかなか当てられないのに業を煮やしてルール違反をして「東北人よ!」「宮城じゃない、岩手!」「芸能人じゃない!!」とかえって興奮のボルテージを高めていくのがおもしろかった。
ぜんぶがあっという間におわったあと、おやつといって先生のおともだちのフィリピンの方が作ってくれたり持ってきてくれたものをいただいた。ちいさめの揚げ春巻き、バナナマフィン、油揚げのチップス、バナナチップス、パイナップルのグミ。きょうはオンラインで注文して準備したけど、仙台のドンキホーテの国際食品コーナーでもお菓子なら買えますよとおそわった。
まわりの年上のかたがたは、事務員を辞めて余暇をなぐさめるのにこられたとか、近所にフィリピン人女性が嫁いできたので挨拶くらいおぼえたいとおもってこられたとか、先生が勤めている小学校の同僚としてこられたとか、十人十色の目的をお持ちだった。