もよりのホームセンターを三度おとずれてローズマリーの苗木を持ち帰った。

いちどおとずれたときはまだ暑かったころ、別の買い物にいったときに店先のガーデニングコーナーを見た。ローズマリーといっても、縦にのびて生長するのと横に広がって生長するのに大別されるというのをはじめておぼえた。鉢も土も肥料もわからないでいきなり命をあずかることはできないとおもって、いちど帰った。

秋がはじまるころにもういちどおとずれた。鉢、鉢底の軽石、培養土、ヘラ、などのちいさな道具のセットを揃えた。はじめて園芸をするひとに向けて、これらの道具にチューリップの球根を同梱してセット売りしているのがみえた。でもぼくはローズマリーがやりたかった。苗もみたけど、いっしょに持ち帰りはしなかった。その日と次の日になにか別の用事があったか、それか天気が悪くかったか、いずれすぐに鉢をつくれない気がしたんだとおもう。なにかのついでにあずかってぞんざいにして弱らせたくない気がした。

いま三顧の礼を尽くすようにして苗だけをもとめてでかけたのは、なんとなくのわずらいで気がふさいで、大丈夫といいきかせてなにも問題ないふりを通すこともできるけど、それをするといっそうふさぐとおもったときに、鉢のセットをガレージにしまってまだあけられていないことを不意におもいだして、秋が終わる前に植え付けをしないととおもいだすにつけて急き立てられるようにしてのことだった。ホームセンターの店先にはこの前まではコスモスなんかが並んでいたのがいなくなっていた。みじかい秋が終わりはじめるころだった。

縦にのびるローズマリーにしようとおもっていた。その種類の苗木はさいごのひとつだけが残っていた。すこしてっぺんの葉先が灰色ばんでいた。さいごまで残される理由がなにかあったのかもしれないけれど、ぼくはこれを選ぼうと選んで、スーパーマーケットでハーブを二種類くらい買えばこのくらいの値段がするという値段で苗をいただいてきた。

鉢のそこに底石をいれて土をゆるくかぶせた。そこに苗木をうつして、こんもりと土でまわりをおおった。ヘラもつかったけどさいごには手を汚してととのえて、ちいさな鉢でちいさな庭をつくった。もうすこし深い鉢がよかったかもとおもいもした。のびればすぐにのびて根を張る木だというから、すこしでも元気になってのびはじめてくれたら、ひとまわりおおきいのにうつしてやろう。たっぷり水をやった。

根が鉢になじんであたらしい芽がではじめるのに一ヶ月くらいまって、それから茎がのびたりふわっと葉がふえたりするらしい。枝がおおいにのびて収穫をかねて整枝するのには半年くらいまつようだ。ゆっくり精気をつけるんだぞと葉をやさしくこすってにおいをためしたら立派な香りはもうしていた。