引越して一月半していまだ練馬ナンバーをぶらさげて走り回っていたのをやめた日の話。

バイクをゆずってもらうことになったとき、レターパックで送ってもらった柏ナンバーを自転車で練馬まで運んでいって練馬ナンバーに交換してもらったんだった。つまりいちどやったことがあるのを宮城でもういちどやる。ぜんぶ終わったいまになってそのときのことも日記に書いていたのを思い出した。一年前の2月8日1だった。

運輸局の宮城支局というのにいく。これは仙台の宮城野にあって、そこにしかない。練馬まで自転車でヒョイ、というふうにはいかなくて、平日にしか済ませられない用事だから、晴れ予報の日をまって仕事を半日休みにした。みょうに早く起きてしまって、遅くなった日の出に合わせてランニングを済ませて、すこしプログラミングの仕事をしてから出かけた。朝はゆうべの雨でぬれていたのが、十時にもなればさんさんと照ってからっと乾いた。

きょうはメジャーリーグのプレーオフの中継もおやすみ。車検証と住民票を持って、下道でも一時間というけれど、午前中の受付時間に間に合わなくて午後まで待ちぼうけになったらしかたがないので、三陸道をヒョイと走って仙台東インターまでいく。バイクでのぼりを走るのははじめてとおもいながら、あたたかいおひさまと涼しい秋の風をあびていく。

三陸道を降りて、道路標識が扇町と矢印をのばしているのに沿って、知らない道路を走ればやがて沿道にガレージが増えてきたのがみえた。運輸局そばにガレージがあると便利なんでしょうね。いちど到着したけどレーンを間違えて出口に直進してしまってもう一周やり直しになりながら、運輸局のバイク置き場に停めました。十一時前です。

平日でも混雑しているのは、車屋さんとバイク屋さんはみんなここに仕事をしにきているわけで、当たり前のことみたい。ポケットのおおいオーバーオールか、国際的部品メーカーのブルゾンをきた男らしさのひとたちが忙しく行き交っていた。

申請書の書きかたをおぼえないまま、家で事前記入もしないままきて、さてどうするんだっけ、となる。ごった返した局内には手続きカウンターのほかに相談カウンターというのがあって、どちらも五人まちくらい。さしあたり相談カウンターのチケットをとって待ってみるが、なかなか列がはけないのをみて、これは午前に終わるだろうかとそわそわしはじめます。

待合室の外に出ると、申請書メーカーという自動機械がおいてあった。スマホで二次元コードを読んで、車検証のデータを選んで入力していくと、規定の申請書を作って印刷してくれるという。これでいいじゃん、とそれをやって、相談カウンターはキャンセルして、手続きにはいれた。

よくわからない申請書をもうひとつ渡されて、それにやっぱり車検証に書いてあることの写しをとっていく。それから駐輪場にもどって、持参のドライバーで練馬ナンバーをはずす。はずしてみてはじめてプレートがちょっとバキッと歪んでいるのに気付いた。固定具をだいじに胸ポケットにおさめて、はじめてのナンバーを手放すのにすこしの郷愁をなぐさめながら、車検シールをはがして返納する。それで書類仕事は終わりで、手続きが終わるのを待つ時間だ。

受付時間は正午の十五分前までになっていて、待ちはじめたのは三十分前くらい。待合室のパイプ椅子に座って文庫本を読もうとして、受付番号を呼び出すチャイムが鳴るたびに耳をとられて、なかなか字も読めなかった。正午すぎに呼ばれて、手続きは終わった。証明書を持って隣の交通会館をおとずれて、書類通りのナンバープレートの発行手数料に ¥850 を払ったら、練馬のやつよりも上等そうな固定具をサービスしてくれた。

ピカピカの宮城ナンバーに日射しをあてて写真をとったりしたあと、小一時間だけナンバーレスだったバイクに付け直します。それからちょっとトイレを済ませたり、いらなくなった固定具を捨てさせてもらって、帰ることにします。

半日休みにしているのがあと二時間くらい残っているので、帰りは下道をのんびりと走っていくことにして、仙台塩釜線に乗ってすいすい走っていくと、前に走っていたバイクに追いついて、そのナンバーはこちらの新ナンバーと一の位がひとつ違うだけだった。そんなことあるか? とおもううちいつのまにかいなくなった。やがてもう多賀城かとおもっていると、前にもいちど引っかかったことがある不意の左折専用レーンにはいってしまって、直進をさまたげられた。おなじミスをするまでこれがおなじ道だとはおもっていなかった。

引き返さなくても塩釜のほうにはいけるというので、前の失敗のときはそこで方向転換してもとの道にもどった丘のうえのセブンイレブンを横手にみて通り過ぎた。すると意外な山道でアップダウンがあって、しばらくいったところで到着した。家ではなくて、大家さんの奥さんがおしえてくれたおそばやさんで、山形蕎麦の「石邸」というところ。

そばの気分できたはずがメニュー本に冷たい鶏中華そばとみえておもわずそれにして、ゲソ天のセットもつけた。賑わっているけど騒がしくなくて、ひろびろとして角館の実家みたいな雰囲気で、食べる前からずいぶん気に入った。ちょっと足をのばせばこれるから、年末にパートナーが帰ってきたらいっしょにこられるようおすすめすることにして、天ぷらも肉そばもそのときまでおあずけにしてたのしみにする。

鶏そばを待ちながらさっき撮った宮城ナンバーの写真をみて気がついた。車検シールをクリアファイルに留めてたまま、あたらしいナンバーに移しわすれてここまできてしまった。というわけで、ごちそうさまをして出たらシールの再貼り付けをして、こんどこそ更新完了です。シンコペーションしてしまいました。

最後の帰り道はナビゲーションをつけないで、道路標識だけをヒントに冒険してみることにしたら、松島の海をみながら帰るつもりでいたのに山道にみちびかれていった。あれ、あれ、これでいいんだっけ、と不安になりかけるたびに三陸道の本線が上にみえて、たぶんあれがみえてれば大丈夫だろといって、やっと知っている道にもどったとおもったらひとつ手前の橋をわたってまた知らない農道に出た。それでも石巻は近づいてきているから大丈夫といっているうち、ちょっと余分に走りながら知らない道をおぼえたとおもった。冒険はうまくいったというわけ。

すこし休憩のあと、のこりの仕事をやって一段落ついたとおもって座ってやすんだら、そのまま眠ってしまって暗くなっていた。充実したとおもった。あんまりたくさんのことをしたわけじゃないなりに。