暗い夢のはなし。
野球場にいた。投手がもういないからお前が投げろといわれて、いきなりマウンドに立った。おもいきり投げたら意外とすいっとキャッチャーミットにまっすぐ届いた。小学生のときに草野球でおぼえたのそのままにカーブボールも投げた。はじめの二、三球のあと力がはいらなくなった。見覚えのある顔のキャッチャーがきて、身体がひらいてるからダメだと怒られた。投げるのが怖いと急に冷静になったが、気づいたときにはマウンドが崖みたいな高さになって降りられなくなっていた。
打ちひしがれて球場のまわりを歩いていた。宮益坂と上野公園と新橋がみょうに融合したような夜の街をあるいていた。戻ってまた投げないといけないと考えていた。逃げようとしているわけじゃない、帰る責任がある、と頭はそのつもりでいて、どこを曲がれば戻れるのかわからなかった。進んでは通りすぎたのに気づいて、引き返してもまたすぎた。
メッセンジャーに「おい、どこにいる」と連絡がたくさんきていた。返事をしようとしたけど、いつのまにか抱えてながら歩いていたおおきなボールの面倒をみるのに手一杯だった。だれかが「だからこいつはカスなんだ」みたいなことをいった。そのとおりだとわかっているときに、別のだれかがそんなこというなとかばってよこして、それがまた苦しい気持ちにさせた。
歩こうとしているけどだんだん足が重くなった。水のなかを歩いているみたいだった。手が滑ってボールをこぼして、坂をころがって夜のとおりに吸い込まれていくのをみた。
もうだめだ、なにもできないんだ、と悲嘆したときにガバっと目が覚めた。