建国記念の日とその次の日で連休を作って鶴岡市湯野浜までドライブする。わざわざ遠出して映画をみるだけともいうし、気晴らしのドライブのついでに映画をみにいくともいう。
早起きはしなかった。五、六時間もあれば着くし、日没もおそくなってきているから、夜までには着こうとおもったところで早朝に出なくてもまにあう。なんとなく陰気な気分で、シャキシャキ寝起きできるほどの元気もないのだった。ガソリンは前の日に満タンにしておいた。
バックパックに着替えだけ雑に詰めて十時すぎに出る。鹿島台から古川そして鳴子へと向かう。だいたいはもうおぼえた経路でいて、古川駅ちかくを通り抜けるのだけいまいちおぼえきれないでいて、カーナビに頼っていく。家から岩出山までがだいたい一時間で、そこから鳴子温泉まで三十分。心のなかではもっと近い気がするものだけど、宮城県の沿岸から内陸までわたればこれくらいはかかるということのよう。
中山峠に向かって走りながら、雪をかぶった山を遠望する。木はまばらで白くかぶった雪の地のうえに点々とみえるだけだけども、かえって枯淡としてみごとだ。水墨画みたいだ。積もったままくたびれた雪とおなじ色の曇空が後景にひかえているのもいい。稜線にならんで立つ木が筆でひいた線みたいに山の輪郭をかたどっているのもいい。秋におとずれてうつろう宇宙のような色をみた鳴子峡は白と茶だけの世界になっていた。いつのまにか県境を越えた。雪はふらなかった。両側に高くつもった積雪は残して、路面はかわいて走りやすい。
道の駅もがみで最初の休憩にする。鳴子の手前あたりから先導するように前にいてくれた大型トラックも休憩にはいって、巨大な車体をゆっくり駐車するのをのんびり待つ。奥の建物でトイレを済ませて、軽食所にあるコーヒーとコロッケくらいでは腹に足りないとみて、正面にもどって食堂があるのをみて、あたたかいそばに鮎の天ぷらをのせたのをいただく。食堂というよりはレストハウスのつくりになっていて、おおきな一本木からとりだした自由な形の卓のまわりに腰掛けがめぐらせてある。熱いそばにりっぱな鮎天がのっているのを、やけどに気をつけて箸でほぐしながらいただく。せっかくのころもがふやふやにふやけて切なくもみえたけれど、もとより豊かな鮎を滋味ふかいスープにひたして食べるのこそ絶品だった。ころもがべったりしていなくて苦味を生かしているのもよかった。
最上のまちなかも、晴れるとまでいかずとも乾いた道を快走させてくれて、路傍の積雪はふるびてコーヒーフロート色になっていた。新庄は市内の南をかすめるだけで、新庄酒田道路に乗って、西へ西へといく。最上川をわたったらしばらく、鶴岡街道が川に並走する。降りこそしなくても空は暗くて、知らない道をいくものだからあまりよそ見もしないでいったけれど、ツーリングにはうってつけの道をいく。
道の駅しょうないまであと二キロ、と表示がみえて、それよりはやく自動車専用道路をおりて、庄内空港立川線に乗り換え。赤川に突き当たったらすこしだけ折れて、おおきな橋を西岸にわたる。ここではじめて湯野浜という矢印が道路標識にみえる。
鶴岡郊外、三時前。まだ西日というにははやいお日さまがさして、もともと弱くしていた暖房を切っても車のなかが暑いとおもわせるようになった。最上からどこにも寄らずとまらずにきたのがいくらか口惜しくも、もう十キロもいけば宿らしいというので、最後までやすまずいく。余目加茂線を西へ。するとひとつちいさな丘をこえて、湯野浜温泉になる。海岸をすこし走って、適当な駐車場に停めて、日本海の浜辺を踏んだ。
そのすぐ裏にホテルはあって、竹屋ホテルという。四時にチェックインと伝えていたのを一時間はやくつく。ホテルの駐車場はすこしはなれてあるとウェブサイトでみていたけど、細い道で立ち往生してもしかたないので、いったんチェックインだけさせてもらおうと正面に入庫したら、従業員のおじさんが誘導してくれて、このままでいいですよとおっしゃった。
客室はオーシャンビューでごく近い浜辺の向こうに海を見わたしている。とはいっても、オフシーズンのことで、押し寄せたゴミがさしあたりそのままになってある。押し寄せるのをやめないゴミをどうにか片付ける熱量をもったひとがやすめば、浜辺はたちまち国際的なゴミに汚されるというのがよくわかる。なんとなくそわそわして、すこしでもゴミ拾いを手伝えればいいのにとおもっても、そのままになっているものはそのままにする。
温泉にはいる。無色透明ですこし塩味のする湯にはいる。露天風呂は首の高さまでが目隠しされて海はのぞめない。すぐ前をさっき通った道路がはしっていて、たまに大型トラックがとおれば、その背中が横切るのがみえる。寒さの峠はこえても、風がふけばなお寒い。露天の湯のほうがすこしぬるめになっていて、こりゃいかんといって内にもどって、あたたまってから出た。客室にもどって、すこしパートナーとビデオ電話をした。
日本海にお日さまがおちるとき空も海も一面を真っ赤にする景色をみせるのがたいへんな絶景らしいけれども、曇り空でそれはさえぎられた。日没時間をみはからって、やっぱりみえなかったわねとたしかめてから、もういちど車にのって鶴岡市内にいく。
鶴岡まちなかキネマで映画をひとつみる。袋詰めのポップコーンがおいてあって、市内で作っているというのをひとついただく。いくつかあるうちバターしょうゆ味というのにする。これがおいしかった。
映画のあと、ごはんにする。映画のなかにひとシーンだけ出てくる老舗の食堂が映画館のすぐそばにあるというのでみにいったら、おやすみだった。駅前のほうに和食レストランがあるのをみて、すこしはいりづらい駐車場のことを計算にいれて、やや遠回りにおとずれて、品数のおおい定食をいただいた。こいりといって、たらことこんにゃくを甘く煮たのがおいしかった。芽キャベツもおいしかった。ぶりのちいさな焼き物と、地豚のちいさな煮物がおいしかった。定食とは別に、ナスの田楽もいただいた。
鶴岡市内をすこし流してから来た道とは違うみちをもどる。宿でまた温泉にはいりなおして、缶ビールのちいさいのをひとつ飲んで、しばらく黙って本を読んだあと日付の変わる前にやすんだ。