和歌山旅行の二日目といって、まだ奈良にいてこれから和歌山に向かうところになります。この日の観光の目当ては白浜の南方熊楠記念館で、それを拝んだら串本町まで一気に県を縦断します。

京都も奈良も、修学旅行の定番になるような観光地はどこも混んでいるだろうからといってじっくりみるつもりもなく通りすぎる予定でいて、強欲さは「せっかくだから」といって東大寺とか唐招提寺の下調べもさせていたけど、結局のところ前の日の疲れがべったりとベッドに身体をはりつけて、ゆっくりのお目覚めです。ホテルの目の前の大通りをわたったところのローソンでさつまいもの蒸しパンを買って、怠惰な日の朝とたいして変わらないはじまりです。

十一時前、ホテルとの約束の時間をギリギリまでつかってのんびりチェックアウトして、いよいよ和歌山に向かっていきましょう。宝来インターから阪奈道路に乗って、東大阪と岸和田をそれぞれ通り過ぎて、紀ノ川サービスエリアで休憩するのをひとまず目指して進んでいきます。

岸和田にもサービスエリアがあるよと表示がみえて、岸和田までは3キロ、紀ノ川までは30キロとみえて、まだ休まなくてもいいわねとおもってサクッと通り過ぎたら、その先に渋滞があらわれたのでした。それはまだたいしたものではなかったけど、渋滞のさきでひとやすみしたいひとが紀ノ川サービスエリアに流れ込んで、誘導してくれるかたは駐車場におられず、入口のところでガッツリ詰まっています。小型車はこちら、と矢印がいっているときに、ゆうゆうと大型車のエリアに向かう厚かましさの群れを横目にみながらいけば、駐車場は奥のほうにひろびろあいていて、ひとめみて渋滞におもわれたものは「できるだけ手前にとめたろ」という強欲さが作っただけのものだったのでした。ジャバラの冷たいソフトクリームと、たこの熱いかまぼこを食べてかんたんなお昼にします。携行食に茎わさびを混ぜたおいなりも持ち帰りにします。

ゆうべの雨はすっかり去って日差しは抜群です。冷房は切って、あけた窓に暑さを追い出させながら進みます。風はすさまじく、野球帽を飛ばされないように窓の開け幅を調整しながらいきます。印南(いなみ)インターからみなべインターのあいだに渋滞5キロ30分と表示がみえて、いけばたしかに偽りなしの渋滞です。だらだらと列をまもりながら、うしろから迫ってきたパトカーを一台とおします。渋滞の出口は、左からインターチェンジからの合流、右からは車線減少の合流と設計されて、これは設計の瑕疵、人為の渋滞…と苦くおもいながらいきます。さっきのパトカーの姿がみえてくると、案の定にその合流のところで追突事故があったとみえます。

上富田(かみとんだ)の出口で降りて、ちいさな山をひとつ越えて海岸へと向かいます。神島台南という交差点で長い信号を待ちながら、その角のガソリンスタンドをみれば、宮城よりいっそう、十円も安い値段をいっているのにおどろきます。降りても混んでいる道をダラダラいきながら、すぐ右手にあるはずの海はさえぎられてみえなく、それでも通りかかった内之浦と書いてある干潟はちょうど海水を干上がらせる時間で、ひろびろと泥をむき出しにしているのがちらりとみるだけで壮観です。

それにしても長い渋滞で、白浜市内までこの調子でいけばもう一時間もかかるかとうんざりしてきたころ、右手に豆腐型のおおきな建物がみえます。これが「とれとれ市場」といってたいした観光地らしく、右折の信号のみじかさに、三分待って三台すすむばかりのカメの足取りで右折を待つ車列が直進レーンをまるごとふさいで大渋滞を起こしているのでした。そうとわかるのにしばらく要して、そうとわかればわざわざ待つ筋合いもないので、並びたいひとは待たせたまま追い抜いて先に向かいます。

いきなりあらわれたミニラウンドアバウトに惑わされもしながらうまくもとの道に復帰して、いよいよ海岸筋の道路をドライブ日和にいくのはすばらしい心地になります。海のうえには自然の鳥居のごとき奇岩がこちらに顔を向けています。それをおがむために車をとめるひともおおくみえます。しかしこちらは渋滞でもうずいぶんに遅れてしまったのでまっすぐ進みましょう。

京都大学白浜水族館とみえるほうに私道をはいっていけば、それよりもいくぶんちいさな表示に南方熊楠記念館とみえはじめました。駐車場と矢印が出ているのに従っていくと、工事現場の交互通行のための信号機が据えてあって、ふしぎにおもいながらいけば、記念館は細道ひとつかろうじてとおした山のうえへと導きます。にわかの急勾配がはじまるのといっしょに、両側から幻想的な木がせり出しておおってジャングルのようにみえて、海から山へとはげしく移り変わる景色はいかにも秘境のよそおいです。

頂上の駐車場にとめて、五時には門がしまるからかならず余裕をもって降りることと書いてあるのをみていきます。記念館も五時に閉館となっているけど、それよりはやめにもどってくるのがよさそう。それで二時間くらい、ツアーに参加して常設展をみて、門がしまる前にもどっておなじ急勾配をおりていきます。京都大学水族館も五時にしまって、今回は見学できなかったけど、かえってまた来るための口実にもなるかなと前向きにとっていきます。

山をおりきって二車線の道にもどるときにひろい駐車場がみえます。そこに停めて、来るときにみえた奇岩をおがみにいってみましょう。カーナビの地図にあれは円月島とみえています。車をおりて進みはじめると暴風がふきすさんで、前傾姿勢のいきおいで歩きます。駐車場すぐのところはまだ円月島がななめにしかみえなくて、もうすこし、もうすこし先に進めば正面をおがめるかなといけば、一段高い道路から海岸の岩場におろす階段がみえて、それをおりれば高波防止の遮蔽物ひとつなく、海とそのさきに岩をまんまるにくり抜いたあのふしぎな島がまっすぐにみえます。いっそう厳しく顔を打つ風に背中を向けながら円月島をせおって自撮りをひとつすれば、それで精一杯となって逃げ足をまきます。

宿への道は南紀白浜インターよりあっちが無料区間となっているのをとおっていきます。自動車道の終点、すさみ南インターをおりて、山をひとつくだった交差点が道の駅すさみとなっているところでひとやすみとして、柚子もなかのおおきな箱をひとつお土産にします。

もうこのさきには自動車道のない海岸の道を、もう暗くなりはじめているのにライトを消したままのタウンエースが背後についてくるのを不気味におもいながら、20キロばかりをあわてずにいきます。串本町内にはいったところで分かれ道があって、道なりにいけばホテルに直行できて、折れれば本州最南端の岬に通じています。西の空にはまだ夕焼けがみえて、暗闇まではもう30分くらいありそう。それまでに岬からの遠望もたのしめそう。あしたもまた来るとして、いちど下見にいくのもわるくはあるまいといって、きょう最後の寄り道にその岬をかすめにいきます。

日没の潮岬(しおのみさき)周遊線は木の暗がりになっていて、前後にも対向にもほかの車はほとんどみえません。レンタカーの自動ハイビームが勝手にはじまるのにまかせてぐんぐん進んで、どこが岬への入口かしらと手探りにいったさき、あとから追い上げてきたスポーツカーに背後をとられて、先にいってくれないかなとおもった矢先、砂利敷のひろい駐車場がみえたのに飛び込んでのがれてみます。するとそこがまさしく灯台への通路になっているのでした。

灯台の門はすでに閉じていて、その門を迂回した先にパワースポットがありますよと案内の表示がいっているのをみていきます。もう日没も終盤で暗くさみしい道をひとり進んで悪いことがおきたらどうしようとすこしばかり心配になっていると、うしろからカップルが一組、おおきな子どもたちを含んだ家族が一組と小走りに日没をみにいくのに追い越されて、これなら怖いこともないかなと落ち着いてあるいていきます。

ちょっとした山道の先の見晴台のことを鯨山見と呼んでいるのは、ここへと回遊してくる鯨の群れをこの山から見張りをして、みつけるや捕鯨船を繰り出した生活がそう名付けたのだと観光案内のパネルがいっています。岬の先にはたしかに日没がみえたけれど、見晴台を越えて立派に生い茂る松がちょうど夕陽をさえぎって、松の葉を通してだけ消えかけの暗いオレンジ色がみえるのは、写真にはうまくとらえられないけど奥ゆかしいめずらしい景色だったのでした。

だらだらして真っ暗になるといかにも怖いさみしい歩道のことなので、ほんとうの景色はまたあした拝むことにして、そそくさと来た道を車へどもどります。従軍記念とか忠魂とか掘ってある石柱が薄暗がりのなかにぬっとあらわれればひやりともします。車を出して、周遊道路を一周してもどっていけば、いまそこから出てきた駐車場のすこし先が芝生のキャンプ場になっていて、本州最南端を見晴らす丘に貼ったテントの影がいくつもみえます。あしたはここに停めればよろしいかとおぼえて、ぐるりと帰ります。

ホテルは串本の中心から車で五分ばかりの奥まったところで、駐車場にいれたら警備のひとが満車を告げて、向かいの道の駅に停めてほしいというのにしたがいます。道の駅はもう営業をやめているし、周囲の飲食店も休業しているか、やっていてももうラストオーダーを締め切っているようす。ホテルのなかにも食事処は備わっていなくて、チェックインのあともういちど町内にもどって、ローカルスーパーで中華料理のオードブル、細巻きのパックと熊野ビールの缶を持ち帰りにします。

おおきなテレビが楽天イーグルスの中継をながすのをしばらくながめて、シャワーを浴びたらこの日も疲れ切った身体をひろいベッドにもぐりこませます。